タイルが雨に濡れていて足がすべりそうになった日

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卵の賞味期限が切れていた。フライパンで焼こうと思った。油をひくのを忘れた。そのまま焼いたらフライパンに焦げ付いた。

雨で靴下が濡れている。

ビルの表面のガラスが魚の鱗のように光っていた。雨が上がった後の空を映していた。太陽が低い位置にあるがまだ明るかった。街路樹が逆光で黒っぽく、浮かび上がり溶けていくような感じがした。木々の細い枝に小さな黄緑色の粒子がたくさんついているように見えた。心にそれを映そう。

人生の 1 日とはなんだろう。仕事に忙殺されてあるがままの世界をみることはない。ビジネスの世界はゆっくりと時間をかけて始めて立ち上がってくる経験からやっぱり遠い。

私が今日を生きたということは、ほんとうに断片的な感覚、細切れな、意識もしない中で流れていく断片の散らばりとしてある。思い出すことができるのはいつも、老いても、死ぬ時も、断片の感触だけなんだろう。